山の初日の晩餐会

外は大分暗くなってきたが、村にはもちろん電気はない。ビットが持参したろうそくを竹製の床の上に何本も立てて明かりを点した。これでいよいよ山の生活第一日目の晩さん会の始まりだ。

 

食卓兼用の床の上には、ホウロウびきの器に入った3種類のおかずとごはんが用意された。この器というのは、昔、小学校の保健室に置いてあった紺色の縁取りのついた白い消毒用洗面器そのものだった。コックのビットは、各自にまずごはんを配りはしを持つように指示した後「アー・ユー・レディ?」と聞く。みんな一斉に「イェー!」と答えると、彼は手を振って「ゴー!」と号令をかけた。みんな物も言わずにガツガツと食べ始める。普段から大食漢であろう彼らの食欲はすさまじい。こちらも遅れをとってはならぬと必死で食べる。

 

メニューは豆腐ともやしの炒め物、牛肉とネギとピーマン他の炒め物、パイナップル入り酢豚風のあんかけの3品だった。どれもとてもおいしくてあっという間に平らげてしまった。全く違和感がないのは外人向けメニューにしているからなのだろうか。タイ料理そのものを良く知らないのでなんとも言いようがないが、あまりチリを入れないようにしているからか、ほとんど中華料理と変わらない印象だった。それにしてもみんなごはんをよく食べる。近ごろは欧米人もごは好きが多くなっているのだろうか。

 

食事が一段落すると簡単な自己紹介が始まった。私の隣に座っているのはニュージーランド人のトーレンだ。彼はそれぞれの出身地や名前を丁寧にノートに記しており、私が聞き逃した人の分も見せてくれた。

 

参加者はイギリス人2名、オランダ人2名、フランス人1名、アメリカ人1名、ニュージーランド人1名と、私たち2名の合計9名だった。しかしほとんど20代の若者ばかりで、しかも私以外はすべて男の子なのであまり共通の話題が見つからない。しかたなく隣のトーレンにミルフォード・トラックの話をしてみた。

 

ミルフォード・トラックというのは、私たちが4年前歩いたニュージーランドの南島にあるトレッキング・コースのことである。豊かなブナ林や無数の滝、フカフカな緑のじゅうたんのような美しい苔が印象的な、世界的にも有名なトレッキング・コースである。そのコースの途上、マッキンノン峠という所で私たちは結婚式をあげたのだ。彼はニュージーランド人と言っても北島の出身で、ミルフォード・トラックのことを知らなかった。そこで私たちは不自由な英語を駆使してガイドしてあげた。

 

自国のことを外国人の方が知っているということはよくある話ではある。

 

 

8 チーフの家で酒盛