ゲートを入って

ゲート手前
       ゲート手前

車が山中に入ってしばらくすると、ゲートが現れた。ここでトイレタイムとなる。近くの建物に入って行ったドライバー氏が、しばらくすると片手に大きなシャベルを持ってにこにこしながら戻ってきた。その理由は後で知ることとなる。

 

山中に入ると、車の前方には想像をはるかに越えた道が現れた。橋のない小川を突っ切って走るのはまだ序の口だ。突然眼前に現れた橋を見た時にはギョッとした。両側に縦に渡してある木はまともそうだが、横に渡してある板は折れたり割れたりして、下を流れる川がそのままよく見えるという状態なのである。踏み外したら落ちてしまう。他のメンバーに目くばせすると彼もぎょっとして身を固くしている。こんな道が延々と続くのだろうか。

 

次に現れたのは粘土状の赤土だ。時々やってくるスコールで乾いている暇がないというドロドロ状態である。折しも雨が降り出した。車は直進している時でさえオシリを振って走っている。時々現れるのは大きなタイヤがスッポリ埋まってしまうほど深くえぐれた轍だ。ドライバーの超人的運転技術で1つ1つクリアして車は走る。荷台に取付けられた2本のバーはこのためにあったようだ。タイヤが掻き出してシートまで飛ばしてくるドロを素早く避けながらメンバー全員懸垂状態だ。右に左に揺れながら次第に無口になってくる。

    雨中では幌がない車は大変だ
    雨中では幌がない車は大変だ

そのうち目の前に立往生している車が現れた。彼らの荷台には幌はなく全員雨でびしょぬれだ。こちらはその姿を横目で見ながら通り過ぎる。ホッドの言っていた「このトヨタは最高!」の意味がより具体的に理解できる場面だった。

しかし、とうとう私たちの車も立往生するハメになった。ドライバー氏が持って来たシャベルはこの時に備えていたのだ。とは言え外は雨。彼はよっぽどの事がない限りシャベルの使用は考えていないようだ。

 車はうなりをあげて脱出を試みるが前にも後ろにも進めない。ビットはみんなに車体を揺すれと指令を飛ばす。私は『そんなことして落ちたらどうすんのよ!』と心の中で思わず叫んでいた。何しろ車の右側はがけっぷちから1メートルも離れていないのだ。それでも全員オシリを浮かせて荷台を揺すっているうちにようやく脱出できた。

 

楽天的なわが仲間たちもさすがに不安な気持でいたのだろう。ほっとした途端に誰からともなく「ユー・アー・グッド・ドライバー!」と運転席に向かって叫んでいた。

私は脱出した場所が何となく気になって、後ろの方を振り向いて確認して見た。するとそこには真っ黒に焼け焦げたどろ土が残されていた。

 

やがて遅い昼食をとるための休憩所に到着した。マーケットを出発したのが12時過ぎで、ここに到着したのが2時半位だから2時間以上も車の中で格闘したことになる。ドライブでこんなに腕が疲れたのは初めての経験だった。車を降りるとここからは徒歩で進むことになっている。発砲スチロール製の弁当箱に入ったチャーハンが配られると、屋根と竹製の床だけの休憩所に座り込み、やけに多い蚊を手で払いながらの食事となった。食べおわると即出発だ。

 

マーケットを出発する際、ビットの勧めで水のボトルを買っておいて良かった。彼は「水は一人一本づつ買っておいた方がいいよ。ここなら1本5バーツだけど山では10バーツするからね。」と親切にも私たち夫婦にだけ教えてくれたのである。断っておくが彼は私たちの懐具合を知っていたわけではない。日本人に対する親近感から生じた親切心だったと私は思う。それにしてものどが乾いた時にはやっぱり水が一番だ。

 

今日の山歩きは1時間ちょっとで短かったが、暑いし雨は降るしおまけに車中の疲れもあってかなりきつかった。明日は6時間位歩くと言っていたけど大丈夫だろうか。

 

6 カレン族の村に到着