カレン族の村を訪ねて

カレン族の集落は山の傾斜地にある
   カレン族の集落は山の傾斜地にある

初日の宿泊先はカレン族の村だ。村の入り口近くの家ではおじいちゃんが蝶の標本を作っている。わずかしかない現金収入の道なのだろう。黄色い液体の入った注射針を刺しているのを見て、小学校の夏休みの宿題でせみや蝶の標本を作った事が懐かしく思い出された。

 

山の中腹に位置するこの村で、最初に私たちを歓迎してくれたのは2、3羽のチャボと数匹の子豚君たちだ。私たちのまわりをやけに元気に走り回っている。この豚君たちは食用なんだろうかと、ふと気になったりする。高床式の家々をよく見回すと床下には親豚たちがつながれているようだ。囲いの向こうには牛の鳴き声も聞こえている。

 

宿泊先の家は村長(チーフと呼んでいた)所有の家なのか、それとも村の集会所なのか、その造りは日本の夏の浜辺でよく見かける「海の家」といったところ。板状に切った竹で床を作り、壁も竹でできている。ビットが教えてくれたところによれば、チーフは片道2時間以上かけてチェンマイの町へ出て、トゥクトゥク(三輪タクシー)の運転手をしているそうだ。彼はタイ語の「こんにちわ」はカレン語では「ダンブル」と言うのだと教えてくれた。村長と言っても風格があるわけでもない。始終人のよさそうな笑顔を見せてくれるが、その前歯はほとんど欠けていて、ごく普通のいなかのおっさんといった風貌だ。

 

聞いても無駄とは知りつつも一応確かめる必要を感じて「ビットちゃん、トイレはどこ?」彼は待ってましたとばかりに「イン・ブッシュ」と周囲のやぶを手で示す。当たり前だよね。でも確認しておかないと村のルールに違反したりするのはいやだから。

 

みんなが疲れて昼寝している合間もビットは部屋の片隅で黙々と食事の支度をしている。そのうち片手に水のボトルと食べ物の入った皿を持って私たちふたりの所へやってきた。ボトルの中身は現地の酒だそうだ。夫とは良い飲み仲間と決めているようでしきりと酒を勧める。皿の中味はローストビーフと小魚の煮物が入っていて、チリと一緒に食べるとおいしいと勧めてくれるが、言われたとおりに食べてみるとその辛さは半端ではなかった。私はおとなしくチリ抜きで食べた。酒も一口飲んでみたがかなりきつい。しかし夫はニコニコとうれしそうにビットと差しつ差されつで盛り上がっている。

 

カレンの子供たちはみんな人見知りが強いようだ。私たちの様子を見にやって来た子に「ダンブル(こんにちわ)」とあいさつしてもはにかんだ様子で笑うだけだ。「チューアニャンコ?(あなたの名前は)」と尋ねてもなかなか答えてくれない。それにしては入れ代わりたち代わり様子を見に来るところを見ると好奇心は旺盛なようだ。あんまり旅行者に慣れていないということなのだろう。

 

 

7 山の初日の晩餐会