マーケットにて

午前11時頃、車は山に入る手前でひとつの村のような広大なマーケットに立ち寄った。ここでは食料・衣料・家具など生活に必要なありとあらゆるものが売られているようで、大勢の人たちでごった返している。ビットはここで3日分の食料を仕入れていくつもりらしい。

 

車が停車するや否や、私たちを除くメンバー全員が目の前のレストランに入り食事を始めてしまったので、私たちは困ってしまった。なぜなら二人とも「お金がない!」のである。二人の所持金全部合わせてみてもなんとたったの200バーツ(700円位)しかない。出発に際して靴の購入以外にお金を使うことを予期していなかった私たちが間抜けだった。そのなけなしのお金でくだんの山歩き用の靴を買わなければならないし、他にも不意の出費があるかもしれない。要するに飲食などでお金を使う余裕はないのである。みんなが缶ジュースをごくごく飲んでいる様子を横目で見ながら、私たちは靴を買いに行くことにした。

 

ここでまた問題にぶつかった。どこの店に行けばよいかは予め聞いておいたものの、一体どの靴を買えばよいのか肝心なことがわからないのである。店のおじさんはタイ語しかしゃべらない。ビットを探しても、彼は食材を求めて広いマーケットのどこかに姿を消してしまっている。

 

困った私は名案を思い付いた。持っていた地図をおもむろに広げると、歩く地点を指さした上で手話の要領で歩く事を表現し、それとおぼしき靴を指さし「イズ・イット・OK?」と聞いたのである。彼は自信たっぷりに「OK」と断言してくれた。代金は2足で110バーツだと言う。夫がすかさず値切ったが、どうしても100バーツまでしか値下げしない。私たちの買物に辛抱強く付き合ってもらった手前もあったので潔く100バーツ(約350円)で商談成立とした。

 

なんだかクツずれしそうな一品で少々不安を感じたが、ビーチサンダル姿でおまけに所持金に余裕のない私たちに選択の余地はなかった。

 

ゲートを入って