いかだを降りた川岸には4頭の象と象使いたちが待っていた。象の背中にはベンチのような物が括りつけられていて、いったん頭の上に乗ってからそこへ2人づつ腰掛けるよう指示された。
象の頭にはワイヤーブラシのような長い毛が生えていて後ろから眺めてみると何だかとっても不思議な光景なので、私は思わずカメラのシャッターを押してしまう。ここからは約一時間の行程だそうである。
象は歩きながら始終長い鼻を使って木の葉をむしりとっては口に入れている。
しかしその一方で行く手に現れるぬかるみや水たまりを見逃さず、上手によけながら歩いていくのはなかなか賢い。泥道のぬるぬるした感触は好まないと見える。
ところどころに行く手を阻むうっそうとした薮が現れると、象使いの命令で一斉に川の中に入って行く。ボートやいかだでなく、象の背中から見下ろす川の流れというのもなかなか風情があるものだ。体重が重いから川の流れが多少きつくても転んだりはしないのだろうが、こんな所でつまづかれたら大変だ。
しばらく象に揺られていると私は何だか気分が悪くなってきた。車酔いとそっくりな症状なので、これはきっと「象酔い」だ。
しかしカーブの多い山中を車でドライブするよりは症状は軽く、回りの景色に見とれている内にすっかり忘れてしまった。
やがて左には広大な水田が開け、右手には山の傾斜地に作られた段々畑が見えてきた。
段々畑では民族衣装を身につけたリス族と見られる人たちが農作業の真っ最中だ。
山岳民族の衣装はカラフルでデザインも凝ったものが多い。農作業で汚れるだろうにいつでも着ている様子からするとおしゃれのためのものではなさそうだ。数多くの部族を衣装で見分けるため、あるいはここの土地はどの部族のものか分かるようにという目的でもあるのだろうか。
平地に出ると日本の水田地帯とほとんど変わらない風景となった。日本と異なっているのは田んぼの向こうに椰子の木が見えることだけである。
のどかな田園風景を眺めて進むうちに集落が現れる。ここはシャン族の村だ。山中でひっそり暮らすカレンやラフーの村と比べると、その豊かな生活ぶりは一目で分かる。
象の一団はこの村のとある民家の前に到着した。私たちを乗せてくれたメッポウは、健気にもひざまずづいて自分の鼻を滑り台のようにして降ろしてくれた。こんな大きな象をかけ声ひとつで操ることのできる象使いの人たちは本当に大したものである。