就寝時間の10時になってみんなが部屋に引き上げると、金井さんが走って来て「ヒンガがツチボタルを見に連れていってくれるそうだけど、どうする?」と言うので「もちろん行く」と答えた。「みんなには秘密よ」と口止めされたので、コッソリと、しかし素早くカッパを着て準備した。普段はみんなを連れて行くこともあるらしいが、今日は雨が降っているから全員で行くのはやめたらしい。金井さんはスタッフのヒンガと仲良しなので、特別に頼んでくれたのだろう。
暗闇の雨の中、10分も歩いただろうか。懐中電灯の心細い明りだけを頼りに水溜まりを避けながら歩いたので、その倍も歩いたように感じられたのだが。そのうちに先を行く二人が脇道へ入って行った。何しろ真っ暗なので様子がわからないまま従った。
「明りを消して」とヒンガの声が聞こえる。あわててスイッチを切ると、いるいる。洞窟で見たほどのスケールではないが、まわりを見渡すとそのあたり一面がキラキラ輝いている。しかもここでは間近に見られるのだ。どんな風になっているのだろうと、懐中電灯で照らしながら覗き込むと、ほとんど透明に近い糸のようなものが垂れ下がっていて、その糸にはビーズのようなしずくが連なっている。これで幼虫が餌を捕らえるらしい。光は成虫が放っているのだが、どれが成虫なのかはよくわからなかった。
不思議な光景をすっかりたんのうしてロッジにもどった私たちは足音を忍ばせながら部屋に入った。そして、まぶたの裏に満天の星を描きながら眠りについたのだった。