さて、当日夕方6時30分、私たちはホテル内のグリーン・ルームに集合した。トレッキング・ツアーのガイダンスが始まるからだ。ざっと見渡したところ20人位の人達が集まっていた。
5日間のコースの概要やロッジでのスケジュールを一通り説明した後、雨具のことや、靴擦れとサンドフライへの対策などの各種の注意があった。サンドフライというのは日本で言えばブヨのような虫らしい。さされるとかゆいので、防虫スプレーを吹き付けておくようにとのことだった。また雨も多いためポリプロなどの乾きやすい長袖とタイツの上に、Tシャツとショート・パンツを着用するのが、理想的なファッションとのことだ。
ウェアの話になると、人々の関心は部屋の前方の壁に止めてあるお手本の組み合わせに集まった。そのタイツが目にも鮮やかな真っ赤だったので「あんな格好で歩くんですか?」と言っているらしい。派手好きなアメリカ人でも気になるのだろう。 ひとしきりウェアの話で盛り上がってから、レインコートとシーツの貸し出しとなる。私はシーツだけ受け取った。レインコートの方は『てるてる坊主』のようなスタイルになることを恐れて日本から持って行ったからだ。チビにはいろいろ苦労がある。
それが終わると、チーズとワインと野菜スティック程度のスナック・パーティーが始まった。私たち以外に日本人はただひとり、クィーンズ・タウンから一緒だった横田さんという男性だ。発音の巧拙はともかくとして彼は一生懸命よくしゃべる。職場で英会話講習を受けているそうだ。私たちよりは英語が達者なようで少しほっとした。彼はワシントンで医師をしているブラントと奥さんのエリノアを紹介してくれた。
ひとしきりおしゃべりしてから夫と私は食事にでかけた。安くておいしいという評判の『ミンガーデン』という中華料理店である。 ふたりで勘を働かせつつ、いくつかの料理を一品づつとってみる。牛肉と野菜のオイスターソース味、貝柱と野菜の炒め物、ワンタンメン、それにワンタン・スープとライス。どれもみな「おいし~い!」と感動してしまった。「一流レストランもいいけれど、やっぱり外国での食事は中華に限るね」と、この点についてふたりの意見は一致する。他の料理に比べてあんまりハズレがないからだ。おまけにこれが重要なのだが、とにかく安い!
ホテルへの帰途、日本で言えば八百屋とおぼしきマーケットへ寄って、リンゴとオレンジを2個づつ買った。ほとんどが1㎏いくらと書いてあったが、きちんと秤に乗せて少しの買い物もいやな顔をしないで売って貰えた。店の片隅には植物の種やら植木やらが置いてあって、日本の八百屋とは趣が異なっていたが、果物も植物の仲間であることを考えれば、納得がいく。