今回私たちが参加するミルフォード・トラック・ツアーというのは、国営ホテルTHCの主催で行われる4泊5日のガイド付き旅行のことである。
全行程がハイキングと登山の混じったようなトレッキングの旅だ。 日本では考えられないことだが、宿泊先のロッジには清潔なベッドと温水シャワーが完備されている。また何人ものスタッフが常駐しており、豪華なフルコースの夕食と昼食にはサンドイッチまで用意してもらえる。従って極めて軽装備の山歩きが楽しめるので、世界中から多くの老若男女がやって来る。ただし1日当たりの出発人数は30数名程度の制限があるようだ。
ベッド・ルームは男女別なので男女の割合により多少変わるのだろう。出発時間や歩調などは各自の好みに従い、一方通行となっているコースを自由に楽しみながら歩く。みんなでゾロゾロ歩かないこともうれしいが、この人数制限と一方通行という点は、とくに私が気に入ったものだ。
『みんなでゾロゾロ…』と言えば、この旅行の少し前に、尾瀬のニッコウキスゲを見に行った時のことを思い出す。狭い登山道で学生たちの集団にぶつかり、すれちがう下りの連中を待っているほうが長いので、とてもいらいらさせられた。登り優先が通用しないのだ。それに木道では、何とか会などと名前をつけたたくさんのグループが、お揃いのレインコートを着てぞろぞろ歩いているのも奇妙だ。
『こういう所へ集団で押し寄せるなんて…』とどこでも群れを作る国民性に悲しくなる。「私は人間の群れを見に来たのではなく、自然を見に来たのだ!」と叫びたかった。歩道のすぐ脇に群生しているミズバショウが異様に大きく育っているのも人間が大勢入って来るのが原因らしい。「こんな風に無制限に人間を入れては自然が破壊されてしまうじゃないの。団体旅行を締め出すとか、予約制で1日あたりの人数を制限するとか何とか手立てはないの?」と夫を相手に息巻いたものだ。
ミルフォード・トラックの特徴である入山者の制限には『さすがは自然保護が徹底しているニュージーランドだ』と溜飲が下がる思いだった。
出発前夜へ