ミルフォードトラック 15

完歩証授賞式

ミルフォード・トラック完歩証明書
ミルフォード・トラック完歩証明書

最後の宿泊先のTHCミルフォードサウンド・ホテルでは、ガイドから参加者一人一人に完歩証が渡されることになっている。

 

シャワーを浴びて着替えを済ませてから会場であるバーに集合した。ガイドのキースから証明書が手渡される度に、みんなが口々にああだこうだと言いながら拍手して称え合う様子は実に微笑ましい。

 

ラリーの受賞シーンは傑作だ。名前を呼ばれて前に出た途端、バッタリ倒れて「もうダメだ、歩けない」と口走りながら床を這って進み、ようやくキースのところに辿り着くというパフォーマンスを演じて見せた。真に迫ったその様子にピーピーと口笛が鳴り大いに受けたのは言うまでもない。

バーでの式が終わるとレストランでのディナーとなった。私たちと丸テーブルを囲んだメンバーは、横田さん、ラリー、ジャックとメリーベス、エリックとバーバラだ。

 

マッキンノンでの結婚式がすばらしかったと話題になったところで「私たちにメッセージをください」と書いてノートを回した。すると、ラリーが「オー、マッサージ!僕の部屋の番号は……」と言い出したので、驚いてノートを覗き込むと『メッセージ』のつもりが『マッサージ』となっていた。ここで負けてはいられない。夫と私は平然と彼の肩を片方づつマッサージしてあげた。しかし「いくらくれるの?」とぬけぬけと言い放つ夫の台詞には、さすがの私も『負けた!』

 

最初の頃一番シャイな感じだったラリーが、実はちゃめっけたっぷりのユーモラスな人物だということが分かってきた。彼の仕事を聞いてみると、「サーフ・エンジニア」と答える。「何だろうね?」と日本人3人で考えてもどうしてもわからない。何回も聞いてようやくコンピューターの『ソフト』ウェア・エンジニアだと分かった。カレッジで教えているそうだ。

 

食事の後、私たちは日本から持って来た富士山の写真絵葉書をみんなに配った。何かの折りに、お礼となるようなものがあるといいなと準備しておいたものだ。結婚式でのみんなの暖かい心配りに感謝してひとりひとりに1枚づつ選んでもらった。みんなマウントフジは大好きらしくて「ビューティフル!」を連発する。「ぜひ一度登ってみたいと思っている」と何人もの人が言っていた。

 

カレンは「この間日本に旅行したときは、台風が来て新幹線が止まってしまったのよ。富士山が見られなくて残念だった」と話していた。ささやかなお礼ではあったけれど、みんなにはことのほか喜ばれた。持って来て良かった。

       本場のウォー・クライ
       本場のウォー・クライ

次は再びバーへ移動して『宴会』だ。 日本のテレビ・コマーシャルで見たことのある、ニュージーランドのラグビーチーム、オール・ブラックスの『ウォー・クライ』を見せてもらった。

 

「それでは私たちも…」と日本バージョンで「ガンバッテ、ガンバッテ、仕事、ガンバッテ、ガンバッテ、遊び…」とやって見せた。うろ覚えだったので、バシッと決まらず残念だったけれど、何でもやって見せるという姿勢は好感を持たれた。日本語の意味を聞かれて、横田さんが一生懸命訳してあげていた。

ラリーはテキサスのカウボーイ・ダンスみたいなものを披露した。激しく床を踏み鳴らし、乗りに乗って踊ったせいか、息切れしてしまったけれど。

 

そのうちアニーがみんなの前に出て身振り手振りを混えた小噺のようなものを始めた。こういうものになると、英語力のない私たちにはさっぱりわからない。残念だ。

 

夜も更けてまさに宴たけなわといったところで、ブラントがピアノの前に座った。ビートルズのナンバーや、霧のサンフランシスコなどの有名なポピュラーを次々に演奏する。彼の歌声は低音の響きがとてもすてきだ。私たちも、みんなと一緒にブラントを囲んで歌いまくった。

 

飲んで騒いでせいぜいカラオケという日本式の宴会よりは、全員参加のこういうパーティの方が私には楽しい。伴奏なしでも歌える日本の曲を、夫婦でコーラスできたら良かったのにと、後で思った。

 

いよいよお別れの日