ミルフォードトラック 6

グレードハウスの夕べ

ツアーメイトの新婚カップルと(グレードハウス内)
ツアーメイトの新婚カップルと(グレードハウス内)

ロッジでは、スタッフが笑顔で迎えてくれ、暖かいコーヒーやミロなども用意されていた。

雨で冷えた身体がたちまち暖まる。スタッフの計らいで、私たち二人を含めて3組の新婚カップルには一部屋づつが割り当てられた。と言ってもツインやダブルの部屋ではない。ベッドが8台も入っている大部屋なのだ。それを彼らは『ハネムーン・スイート』と言ってウィンクして見せた。普段は男女別のベッド・ルームなのに粋な計らいである。

 

スイートは他のメンバーとは別棟になっていて、3組のカップルだけが一緒だ。リビングには暖炉があって何となくみんながそこに集まって来た。お互いにまだ名前も知らないので自己紹介をすることになった。

ジャックとメリーベスは心理学者と看護婦のカップルで、一週間前にサンフランシスコで結婚式を挙げたとのこと。カウンセリングの研修で知り合ったらしい。

 

バリーとビッキーはニュージーランド旅行の前に日本での船旅を楽しんで来たとのことで、日本海沿岸の景色のすばらしさや子供たちの目がキラキラしていて感動したことなどを熱っぽく語った。バリーはアメリカで車の販売業をしていると言うので日本車の感想を聞いてみると「日本車はすばらしいので売れるのは当然だ」と力を込めた。

 

私たちは、マッキンノン峠で結婚式をするためにこのトレッキングに参加したことを打ち明けた。全員が興味津々といった感じで、「どうしてここを選んだの?牧師さんは呼ぶの?」といったことを質問する。「私たちはクリスチャンでもないし仏教徒でもないので、大自然の中で自分たちだけでお互いに誓い合うつもりだ」というようなことを話すと「神道ではないの?」とバリーはするどい質問を返してくる。

 

「人間は自然の一部であってそれぞれの心の中に神は存在すると思う」というような意味のことを一生懸命話すと、「その考え方は理解できる。アメリカでも最近はそういう考え方のひとたちが出てきている」と力強くうなずいてくれた。因みに4人ともアメリカ人だ。クリスチャンである彼らがあっさりと理解を示してくれて、こちらはむしろびっくりしたくらいだ。

 

「どこで知り合ったの?」と聞くので「職場の同僚なの」と答えると、更に「どんな仕事をしているの?」と聞いてくる。「どちらも公務員で、職業の紹介をしている。私の方は障害者のための職業紹介をやっている」と言うと、「それはすばらしい仕事だ」とみんなに賞賛された。悪い気はしない。

 

ふと思いついて「私の名前は…」と手話をやって見せると、バリーに「僕の名前はどうやるの?」と聞かれた。あいにく指文字のアルファベットを忘れてしまって、頭をかくはめになった。

シンガポーリアンのツアーメイトと
シンガポーリアンのツアーメイトと

ダイニング・ルームでの夕食は、シンガポールから来た4人の女性と同席だった。

彼女たちに「どんな仕事をしているの?」と尋ねてみた。シャーリーは日本人の弁護士事務所、メイはシェル石油、タンとミャウは電話局で働いているそうだ。なまりの強い彼女たちの英語についつい何回も聞き返していると、最年長とおぼしきタンが助け船を出してくれた。

 

彼女は子供が3人もいるそうだからわかりやすく話すことに慣れているのだろう。4人の関係を尋ねると「友人よ」と答えるだけだ。タン以外は3人共20代前半に見えるので、おそらく学生時代の友人なのだろう。日本語のあいさつを教えてあげたりしながら、和気あいあいの雰囲気で食事が終わると、パーティの開始が告げられた。

まずは出身国別に自己紹介し、お国の歌を披露し合う。一番元気なのはやはりアメリカ人でみんな陽気でおしゃべりだ。ハネムーン・カップルの4人と、ドクター・ブラント夫妻、カメラに凝っているらしいリチャードとキャロル夫妻、大学の先生カレンとテキサスのラリーで総勢10名だ。彼等は力強くアメリカ国家を歌ってくれた。

 

次はシンガポールで、はにかみ屋の4人は、みんなに冷やかされながらそそくさと自己紹介を終わらせた。

 

我らが日本勢は3人だが、もうひとりTHCテ・アナウ・ホテルの従業員である金井さんも明日の昼までという約束で同道してくれたので、ここで自己紹介をした。彼女は何年か前に旅行でニュージーランドに来てすっかり気に入ってしまい、熱心な就職活動の上ようやくホテルに職を見つけたとのこと。今日は特別に許可をもらってこのツアーに参加させてもらったと述べた。 横田さんは『長期休暇があったら何をするか』というテーマの社内公募で今回の旅行の企画を書き、めでたく審査に通り休みをもらったとのことだった。ただし自費だそうだ。

 

私たちはハネムーナーの仲間たちに明かした参加の目的をここでも話した。みんなとっても興味を引かれた様子で、目をキラキラさせて拍手してくれた。ピーピーと口笛まで吹き鳴らしている。『ヘヘ照れるなあ』

 

さあ次は歌の番だ。困った。「君が代なんて歌いたくないよね。どうしよう」とヒソヒソやっていると、早く歌えと催促だ。「エーイ、みんなが知っているスキヤキ・ソングでいこう!」と『上を向いて歩こう』を歌うことにした。ありきたりではあるけれど、さすがにみんな知っているようで、ハミングする人達もいた。

 

他のメンバーは、カナダのアン、オーストラリアのマーガレットおばあちゃん、イギリスのアニー、ニュージーランドのデビィ、それにドイツのエリックとバーバラ夫妻だ。全部で8か国、男性8名女性15名で圧倒的に女性が多い。外国人も女性の方が旅行好きなのだろうか、それともただ単にひまがあるだけなのか。

 

スピーチと歌が終わるとゲーム大会となった。力が入ったのは各国対抗のピンポン吹きゲームだ。国別に4人づつのチームを作り、台の両側から球を吹き合う。相手側に落とせば勝ちだ。粘るシンガポール4人組を決勝で破り、我が日本勢が優勝を決めた。チームプレーが得意な日本人を実感する。

 

秘密のナイトツアー