マッサージ講習第一日目。
約束の10時にワット・ポーのマッサージ場へ行く。ティン先生(男性)からまず基本の指圧のやり方を習う。両手の親指をそろえて指圧したあと、手のひらで押す、時には肘、足の裏も使う。そのとき両肘はまっすぐにと注意を受ける。そうしないとマッサージをするとき疲れてしまう。姿勢が決まると、自分のからだと相手の身体をうまく利用できるのでとても合理的だ。
基本の姿勢を教わった後、ティン先生からお手本のマッサージをしてもらう。仰向けになり足の裏の指圧から始まる。指圧はひと押しが2-3秒(ひと呼吸)で指先がじんわりとつぼに入り、かなり痛いのだが気持ちがいい。ふくらはぎ、大腿へと上行する。右足の内側、左足の外側、左手が終わると反対側を同じようにマッサージする。ここまででかなりの時間がかかる。
マッサージ場にはエアコンはなく、天井に大きなファンがゆっくりまわっている。手順を覚えなくちゃとしっかりティン先生のやり方を追っているつもりなのだが、ゆったりとした時間の流れに身を任せていると眠くなってくる。隣のベットでは、ノイ先生(女性)がタイ人の生徒に教えている。指圧の痛さと気持ちよさにぼうっとしていたら、ティン先生から「ハイそれでは同じようにわたしにやってください」と言われおおあわて。冷や汗をかきながら、それでもティン先生の指圧の感覚を思い出しながらまねてくりかえす。
そうこうしていると、次の生徒がやってきた。若い男性で色白。お内裏様のようなハンサム君にマッサージをしてもらうことになった。 先生の後なのでやはりぎこちないのがわかるが、とてもていねいでソフトなやり方だ。いいマッサージ師になりそうなどと思いながら幸せな気分。そうしたら、「ハイこんどは、今まで習った所を彼にやってください」といわれまたまたおおあわて。
こうしてハードな第一日目が終わった。時計をみたら3時近くになっていた。やっと解放されたときには、もまれて筋肉がほどけたのと慣れないマッサージをやったせいでフラフラになっていた。売店で買ったココナツジュースとアイスクリームのおいしかったこと。
【レッスン内容】
2日目-横向きの姿勢。
3日目-うつ伏せの姿勢。〈背中・足)
4日目-仰向け。 (腹・足)
5日目-座った姿勢で首から肩へ。
6日目-ストレッチ(ヨガの方法をとりいれてある)
7日目-顔のマッサージ、フィニッシュ。
8日目、9日目、10日目-フルコースをくりかえし練習。
4日目の朝、ティン先生から、今まで教わったところを隣のノイ先生に行うよう指示された。「彼女の身体は、石だからね」とティン先生が冗談めかして言う。なるほどかたい。それだけでなく汗ばんでいてかなり疲れている。あまりかたくて指が入っていかないので、無理に押さずに気持ちをこめて、冷えた身体を温めるようなつもりで指圧を行った。
ノイ先生は、隣のマッサージ師の女性とおしゃべりしたり、私のやり方が違うと身体で教えてくれたり、行商人からかったおやつを食べたりマイペースでわたしのつたないマッサージを受けてくれていたが、そのうちに次第にリラックスしてきてうとうとし始めた。気持ちよさそうに見えたのでほっとした。何とか終わったとき、「ヨシコ、グッド」といわれたので、疲れも吹っ飛びうれしかった。翌日またリクエストされた。ノイ先生の顔がいつもより親しげにみえた。
こうしてノイ先生、ヨーロッパからの生徒やタイの生徒などいろんな人とマッサージのかけあいをして10日間があっという間に過ぎた。10日目の朝、タイ人の敏感な身体の女性に苦労してフルコースをおえた後、ティン先生から青いケースに入った終了証を手渡された。
「ヨシコ、さっきのマッサージは教えた以上のことをやっていた。とてもよかった。人のからだはそれぞれ違うからね。」と思いがけぬ誉め言葉をもらいびっくりした。「ありがとうございます。次は上級コースを受けにきます」と本気で答えていた。レッスンの間、タイ語がわからないので黙々と授業を受けていたが、みんなとても暖かく接してくれた。
最後の日、私がマッサージを受けているとき、ノイ先生が私の口にサツマイモのおやつをいれてくれた。ここではマッサージ師たちが、おやつを食べたりおしゃべりしながら、リラックスした雰囲気で仕事をしている。今度来る時は、タイ語も覚えて彼女らと言葉でもコミュニケートしたいと思った。
始めてのタイは、なぜか異国にいる感じがしなかった。どこでも親しみのこもった笑顔に出会い心がなごんだ。これは東京ではあまり経験できないことだ。このアットホームな雰囲気はどこからくるのだろう。
カオサン通りの屋台の焼きそばや、市場の食堂で汗をかきながら食べたタイカレーや野菜炒めは、かしこまって食べた王宮料理よりもずっとおいしかった。20バーツでおなかがいっぱいになる幸せ。路上にあふれているありとあらゆる食べ物。くいしんぼのわたしには天国のようだ。気に入ったものをつまみながら歩く。 そんなタイはとても豊かな国に思えた。 (完)